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不妊症の患者さんたち(6) 心に残る患者さん その(2)

妊娠中は、脈は浮で数脈となります。
基礎体温も妊娠期間中は高温でずっと続くし、微熱状態であるから当然と言えば当然で、刺鍼も深度は浅く刺入する必要があります。

治療は月に1〜2回程度の頻度で、そんなデリケートな治療を妊娠中も続けました。

お灸も自発的にずっと続けられました。
高齢妊娠に多くありがちな妊娠中毒も起こらず、悪阻(つわり)もたいしたことなく、順調に月日は過ぎていきます。(ときどき、だるくて、横になると起きられなくなる、という記述がカルテに散見されます)

来院するごとに大きくなるお腹。
それにつれて腰椎の後彎が強くなり、腰痛を訴えることが多くなってきます。

大きく突き出てきたお腹のため、うつぶせの体位が取れず、横向きのまま治療を行ったりしました。

『この歳で妊娠して子供を産むって辛いですねぇ』

そんな事をいいながら、実は私にはちっとも辛そうには聞こえませんでした。

そして、出産を控えて実家に里帰りしました。

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当院が移転したその冬に、その患者さんが幼いお子さんを抱いて来院されました。
乳児を抱えて家事や仕事など、本当にめまぐるしい毎日だそうです。
そんなストレスの状態を物語る、ひどい肩こり状態。

『この歳で子供を育てることって、本当にしんどいことですね』

そうつぶやく言葉からは、疲労困憊と言った心身の疲れよりも、無事出産してその子供が異常なく育っている安堵感が伺えました。

ある日・・・
その新米ママが、今度は1歳になったかならずかのお子様を治療に連れてきました。
『風邪ばかりひいて、咳や熱で保育所を休みがちなのです』と、お母さんは言います。

不妊から始まった2代目のその幼い患者さんには、
ローラー鍼を用いての小児鍼治療を行いました。

ローラー鍼が痛いのではなく未知への恐怖というべきか、普通の乳児なら大声で泣いて抵抗するのですが、その幼い患者さんは好奇心からか大きな目を開いたまま治療を許します。
妊娠中も行っていた治療が、胎教になっていたのかも知れません。

スキンタッチという家庭でお母さんやお父さんなどご家族が乳幼児に対して行える健康法があります。
小児鍼(小児ハリ)に限りなく近い治療法、健康増進法なのですが、治療のときにこのお母さんに、スプーンや歯ブラシなどを使って実際にやり方を教えました。

根がまじめな方ですから、すぐに家庭で実践されたようです。
このお子さんはすっかり咳や発熱がおさまり、通ってい保育園を休まず登園するようになったそうです。


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今年、この患者さん一家はご主人の転勤にともなって関西に転居されました。

ご一家のご多幸と繁栄を遠い空から祈っております。