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差し替え授業

私は鍼灸師のを父に持つ2代目の鍼灸師だが、資格を取るために通っていた専門学校の授業は、とても平凡で退屈な毎日だった。

特に考えることもなく、親の家業を継ぐために入学した学校の授業はとても退屈だった。
とりあえず、毎日学校へ行き、板書をノートに写し、試験前には一夜漬けを繰り返す怠惰な学生生活だった。

そんな学生だったから、成績も芳しいはずもなく、進級はやっとこすっとこで、赤点を取って補講を受けた教科もあった。

学校の授業は朝9時から午後の1時過ぎまで、正味90分の授業が2回だけ。勉強と言うよりは退屈しのぎのために午後から鍼灸接骨院に研修兼アルバイトに行くようになった。

研修先の鍼灸接骨院では、臨床の実地勉強と言うよりは、低周波治療器やローリング、干渉波などの機械の患者へのセットなどばかりしていた。

先生の治療などを見ていても、患者が来れば特に診察もせずに数台の機械にかける流れ作業の指示をくれるだけで、今思えば臨床といえる勉強は全くしていなかった。

とりあえず規定の単位を取得し、無事に学校を卒業し、資格試験にも合格して晴れて鍼灸師となって田舎に帰ってきた。

帰郷してからは鍼灸師である父親について学んだ。
腰痛や神経痛、五十肩と言ったありふれた病気だけではなく、胃潰瘍や肝臓病、糖尿病や子宮筋腫など、内科・婦人科、ありとあらゆる病気を患った患者が治療に来る実際の鍼灸院の毎日に、驚きながらも勉強した。

そんな、私自身のとてもほめられるものでもないような学生生活と、卒業して鍼灸師の免許を取ってからが本当の勉強の始まりであると、授業で話した。

授業では、“誤診”について、自分の少々の経験も話した。

誤診には、
・見逃しの誤診
・勇み足の誤診
の2つがあり、どちらも患者の病態を正確に見抜けなかったと言う点では同じではあるが、見逃しの誤診だけはせぬよう、勇み足の誤診をおそれず、患者に向かい合うべき、と話した。

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見逃しの誤診と勇み足の誤診
 たとえば腰痛で、中には内臓性腰痛、特にガンなどの悪性腫瘍によるものも鍼灸院には来院する。そういった腰痛をろくな問診や診察もせずに、鍼灸の効果がある腰痛であると決めつけること。→見逃しの誤診

 自発痛や夜間痛、症状に増悪傾向がある場合や、胃痛や吐き気、下血、咳などの臓器特有の症状が随伴していないか、急激な体重の変化(多くは体重減)、発熱などの全身症状がないか、外科手術のしたことはないか、などを詳細に診ること。

 もし少しでもおかしい、疑わしい症状があれば、必要な専門医などに精査をお願いすべきである。結局、異常なしとなれば回り道をしたことになるが、患者も術者も安心して鍼灸治療を続けることができる。→勇み足の誤診
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この学校へ非常勤の講師として赴いて3年が経った。

私が通っていた頃とは授業の密度もかなり濃く、取得する単位もかなり多いが、ぜひがんばって全員そろって『先生』になって欲しいものだ。
そして、臨床について対等な立場で話しをしてみたい。