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第41回東北鍼灸学会(2)

だいぶ日が経ってしまいましたが、東北鍼灸学会・青森大会の参加記(学術プログラム)を、メモ・抄録集を見ながら書いてみたいと思います。

東北鍼灸学会は、今年で41回を数える歴史ある鍼灸の学会です。
日本でも、地方の鍼灸師が集まってこのように開催する学会というのは非常に珍しく、これまでこの学会を継続して開催して来れたのも、ひとえに先輩たちの功績によるものと思います。

通常これまでの学会ですと、一般症例発表が東北各県の先生から1〜2例ずつ。合計で10例くらいがあって、翌日に大会特別講演として、著名な医師・鍼灸師・大学教授などの先生による講演があります。

今年は少々変わっていて、『専門領域研修』と名付けられた一種の講習会と、2題のみの一般口演を行ったのでした。

専門領域研修は、日本鍼灸師会で認定された臨床研指導者による坐骨神経痛、腰痛、膝痛、頸・上肢痛、五十肩の整形5疾患について臨床研形式での講義を行うというもの。福島県からは、私が腰痛について話し、座長は竹村裕先生(いわき市・心体治療院)が務めました。

この学会では特に学生の参加が多く、発表の内容もそれを意識した基本的なものを話しました。腰痛の診察は、待合い室や治療室に患者さんが入ってきたその時から、動作等や状態をスナップ診断すること、など、短い時間から聴講している学生のみなさんに、うまく伝わったかどうかかなりあやしいものでした。

ほか、坐骨神経痛、五十肩など、ほかの講師の先生方も時間の配分に非常に苦労していたようでした。

 講演の合間にロビーでひと休み。ここでは医療器具業者さんの展示があります。
無料サービスのコーヒーを片手に、知り合いの先生を見つけては談笑のひととき。


一般症例発表は2例のみ。

・第六席 乳房痛の三症例
  岩手県鍼灸師会 熊谷弘樹先生


乳房の治療を言うのは、鍼灸院ではあまり扱うことのない症例ではある。藤岡先生の三症例では、『珍しいから発表した』とはじめに話していたが、乳房痛が珍しいのではなく、三症例とも乳房痛に合併して手の中指に腱鞘炎のような痛みを伴う異常があったというもの。

治療を行い、乳房痛が改善してゆくと、三症例とも中指の異常も次第になくなってきたという。

・第七席 不眠に対する鍼灸治療の症例
  福島県鍼灸師会 鈴木暢弘先生
(郡山市・はり・きゅう・かいせい治療院)
  座長 〃 竹村 裕先生(いわき市・心体治療院)

 郡山市から参加された鈴木先生の発表は、不眠症に対する鍼灸治療の症例でした。
中医学治療によるアプローチでの症例は、一人の患者さんを長く観察したもので、まさに開業鍼灸院ならではの症例発表と言えるでしょう。



 こちらは、座長役の竹村先生。私の出番の時も座長を務めて頂きました。
座長の任務は、スムーズな発表が行えるように座を仕切ったり、また質疑応答の時の質問の採択を行ったりする、重要なお仕事です。


(二日目)

 大会特別講演
産婦人科領域の鍼灸治療
  筑波技術大学教授 形井秀一先生


以上のように、二日間に渡って学会を行いました。

筑波技術大学・鍼灸学専攻の形井教授からは、本邦の産婦人科領域における鍼灸の歴史から、また逆子(さかご・骨盤位)の治癒に関する研究の一部をお話し頂きました。

江戸時代の頃、香月玄悦が著した『産論(全4巻,1765年)』に、『背面倒首』と言う言葉が出てきます。

以前は母体内の胎児は頭が上になっているのが正常と考えられていました。それを香月玄悦が、『妊娠5ヶ月を過ぎると、頭が下になるのが正常である』、と産論の中で説いたものです。

実際に、香月玄悦による逆子の発見は、1750年(寛永3年)とも言われており、ほとんど同じ時期に、海外ではアメリカの産婦人科医・ウイリアム・スメリーも正常な妊娠であれば5ヶ月以降は胎児は頭が下になる、と発表しています。

 香川玄悦(1770年〜1770年)による逆子の発見は世界では初めてのもので、難産児の出産について触れている『子玄子産論』は、シーボルトによってヨーロッパ医学会に紹介されたそうです。



逆子は鍼灸が大変よい効果があり、その究明も進んできているようです。形井先生の講演では、逆子の治効理論にも触れられていました。
主な文献紹介は下記の通り。

高橋佳代『骨盤位矯正における温灸刺激の効果について』
東京女子医大誌1995.5(10)801-7
・実験と結果
 至陰穴に温灸後、胎動が有意に増加し、施灸後15分で減少してきた。超音波ドップラーにて、子宮動脈(UtA)、臍帯動脈(UmA)の血管抵抗を調べてみると、施灸後が有意に低下している。
・考察
 灸による子宮循環抵抗の低下は、子宮筋のトーヌスの低下を起こし、子宮筋の弛緩は胎動を容易にさせた。


佐藤優子(筑波大学生理学教授)らの研究
J.Auton.Nerve.Syst.1996;59;151-1558.1996
麻酔ラットを用い、
1)遠心性神経刺激による子宮血流の変化を調べ、
・下腹神経遠心路刺激(交感神経刺激)→子宮血流は平常時の70%へ(減少する=胎児には悪影響)
・骨盤神経遠心路刺激(副交感神経刺激)→子宮血流は平常時の125%へ(増加する)
2)体性感覚神経刺激
・仙髄支配領域への皮膚への機械的刺激は、副交感神経→分節性脊髄反射により、子宮の血流を増加させる。

釜付弘志『切迫早産患者に対する灸療法の有用性について』
日本東洋医学雑誌1995;45(4)849-58
・妊娠24週以降の切迫早産患者に対し、至陰への棒灸、湧泉・三陰交へのワンタッチ灸(当院で勧めているお灸?)、マイクロ波照射による、治療前、治療後の臍帯動脈、左右子宮動脈の血流抵抗値の測定。
・臍体動脈、子宮動脈とも抵抗値は治療後10〜30分まで有意に低下。(子宮への血流量が増えたことを示唆する)
・母胎の血液循環動態には変化がなかった。


フランシスコ・ガルディーニ『骨盤位矯正に対する灸の効果』
JAMA(米国医師会雑誌)1998;280(18):1580-4
・左右の至陰に、15分ずつ棒灸を行う。
・結果、胎動回数が増加(35.35→48.45) 頭位回転数も増加(62/130→98/130)


 講演の終わりには、形井先生よる実技の披露もありました。