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ある直腸ガンの患者さん(1)

数カ月ぶりに訪れた50代後半の男性の患者さん。
この方は当院で時折腰痛や肩こりの治療を行っていた。
農作業をしながら金属関係の会社に勤務していて、かなり体を酷使する人だった。

田舎に自宅を構えたとき、丁度近所に住んでいたこの患者さんは、山菜採りや山芋掘りなど、田舎でしかできない山遊びをいろいろ教えてくれた。

この日は腰痛を訴えて鍼灸治療にやってきた。
夜間痛や自発痛もなく、いつもの筋膜性の腰痛のようだった。

『しばらく仕事(お勤め)を休んでいて、昨日から仕事に行き始めたから痛くなったのかも』と、その患者さんは力無く笑う。

農作業が忙しくて休んでいたのかと思ったら、

『直腸ガンで手術して2ヶ月入院していた』とのこと。

その割に腹部には手術創はなく不審に思うと、内視鏡で手術したとのことだった。

脈や腹診を行っても特に虚や病邪の現れは感じなかった。とりあえず通常の治療を行った。

内視鏡でできるかどうかぎりぎりの大きさの腫瘍だったようで、治療中に話す患者さんとのやりとりの中では、これからのことが心配な様子だった。

腰痛の圧痛は上部腰椎外方の脊柱起立筋に沿って現れているが、以前にはなかった仙椎中央付近に叩打痛と強い圧痛があった。仙椎の変形などによる整形外科的な異常と言うよりは、むしろ内視鏡手術を行った外科的な侵襲による治癒過程の後遺症や、または潰瘍や瘢痕などによる関連痛のようにも思えた。

『ハリを続けたらガンはすっかり治るだろうか?』

そんなことを縋るように言う。

ハリ治療でガンそのものが治るか、体から駆逐できるかは約束できることではない。
しかし良好な体調を維持することは、あらゆる病気の予防には効果がある。

もともとこの患者さんは便秘がちだった。
食生活も便秘を解消することを考え、圧痛のある仙椎上と足三里に自宅で毎日お灸を続けるように指導した。

なんとか病気を体から追い出してあげたいものだ。