不妊症

青森で講演してきました

10月24・25日に青森県八戸市で開催された北東北臨床研修会にて、大変光栄なことに講演をさせて頂きました。

私の受け持ちの25日(日)の前日24日には、日鍼会研修部長の稲井先生による『医療面接とリスクマネジメント』と題した講演が3時間という長丁場で行われました。聴講された先生からは、得るものの多い内容の濃い講演だったという話です。

北東北臨床研修会は、青森・秋田・岩手三県の鍼灸師会の合同の研修会で、学術的にすぐれた尊敬すべき先生方がたくさんいらっしゃいます。

私も講演時間は質疑応答を含めて3時間。
以前、我が師会で講演させて頂いたときは1時間半でしたから倍の内容を話さないとなりません。

そこで作ったスライドは約140枚。
3時間ですから、実際に当院で使っているツボや治療法について【企業秘密】と隠さず、すべてお話しできました。




不妊治療を行っている患者さんは、実に様々な事情を抱えて、いくつかのステージに立っていらっしゃいます。

鍼灸治療を開始するにあたって、われわれ鍼灸師は患者さんにどんな治療を提供できるか、またどんな効果が見込めるか、などについての情報を提示できないとなりません。

そのためには、『鍼灸は自然治癒力を高める』といった、漠然としたイメージではなく、不妊の原因となっている冷えやストレスが『なぜ悪いのか』といった医学的な説明や、改善するとどう妊娠しやすくなるのか、といった説明がうまくできないとなりません。



ストレスの治療は視床下部〜脳下垂体〜卵巣系の働きを改善します。寝起きが良くて、なんとなく体調が良い。適量な食事が毎回美味しく食べられる。そんな生活ができるように鍼灸は良い効果があります。



血行が悪いことによって様々な不妊の原因がおきます。
東洋医学では体外に排出されにくい古い血液を『瘀血(おけつ)』と呼んでいますが、子宮内膜症などはまさにこれのことでしょう。

子宮内膜症があると自浄作用で腹腔内でマクロファージの強い活性が起こると言われています、活性化したマクロファージは汚染血を捕食しただけでは終わらず、卵管内に上ってきた精子まで捕食してしまうことが不妊の原因一つと言われています。
このことに対しても鍼灸は良い効果があるでしょう。

原因がはっきりしている不妊の場合で、両側の卵管閉塞や欠損、無精子症などによる絶対不妊はARTに任せるとしても、明らかに致命的な原因が見あたらないグレーゾーンの不妊の方にはどんどん治療をすすめるべきと思います。

講演のときにお話ししたPCOSで自然妊娠した?の患者さんは今日来院しまして、hCGもOKでD44。間違いなく妊娠されたと思います。講演でお話ししたとおり通院は3年2ヶ月。

鍼灸だけの治療にしたら無排卵の状態になってしまいましたが、あの治療法を行うことによってBBTも自然に近づき、やがて妊娠されました。

治療期間3年2ヶ月、、おそらく鍼灸師の方は『そんなに長く治療していたのか?』と驚くことでしょう。
私は自然妊娠を狙って治療を行うのであれば、この通院期間は『無理に引っ張って長くした』ものではないと確信しています。

BBTも改善してゆく・・・頚管粘液も現れてくる・・・そんな改善の兆しがわかっての、患者さんも納得しての長期来院です。
もちろん患者さんの年齢は考慮します。

フィンレージの会での1999年の不妊カップルへのアンケートでは、
・治療年数は平均4.3年(最長18年)
・AIHの最高回数は53回
・IVFの最高回数は23回(2003年には63回)

こういったデータがあります。

3年通院して自然妊娠されたなら、それは万々歳な事だと思ってます。
鍼灸治療費は健保の使えない自費治療ですが、一回体外受精をやったと思えば週一回鍼灸を行っても3年分の治療費がまかなえてしまいます。



ただし長期に治療しても体調が良くなる、BBTが改善しても妊娠に至らない方が少なからずいらっしゃいます。早くそれを見極めて専門の医療機関を紹介するのもわれわれ鍼灸師の役目の一つだとお話ししました。



聴講された先生方も多く、また知っている先生ばかりでしたので私も緊張せず気楽に話すことが出来て大変助かりました。

また研修の準備をされた社団法人青森県鍼灸師会の浪岡会長、橋本学術部長以下精鋭の先生方には大変な歓待を受けまして、前夜の懇親会も含めて心に残る楽しい講演となりました。

授かること、について(4)

不妊症の治療のために来院される方は、いくつかのパターンがあります。

一定期間専門医での不妊治療を行い、効果も思わしくなく、体外受精をすすめられた。

数回体外受精を行ったが、妊娠できなかった。または、科学的流産を繰り返してしまう。

数ヶ月先の胚移植を目指して、体調を整えたい。

胚移植に先立って採卵しようとするが、卵胞が(複数個)育たない。

採卵して受精まではうまくいくが、その後の卵割がうまく進まない。

ざっと思いつくまま、最近はじめて来院された患者さんの来院の動機をあげてみました。

不妊症の治療の第一には、やはり患者さんは専門の産婦人科医院に受診されることでしょう。
鍼灸治療を思い立つ方の場合、どうしてもさまざまな治療を行ったが良い結果が出なかった患者さんが多いように感じます。

特別な診断の決め手となるような検査もわれわれ鍼灸師はできませんし、せいぜいが基礎体温表を読んだり、冷えや凝り、疲労の具合などを指標にして治療するしかない実に時代錯誤的な治療だともいえます。

しかし原因不明の不妊症が実に多い事実で、『体づくり』をすすめるアナログで時代錯誤な治療が良い結果を現すこともあります。

もう書いても良いころかと思って書きますが、7月は、体外受精で卵管に着床してしまい、子宮外妊娠として卵管を片側摘出した患者さんが自然妊娠しました。

普通の女性は卵管が片方でもあれば自然に妊娠することは難しいことではないのですが、不妊治療を長く、しかも体外受精を行っていた方となれば、片側の卵管摘出ではその後の自然妊娠はまず望めないでしょう。

強力に幸運が働き、そして鍼灸も少なからず効果があったのでしょう。

もう一例あって、不妊歴が当院初診時で11年、体外受精は杯盤胞移植が3回あって、排卵誘発を行わないと月経周期が60日以上にもなる方がいました。
周期が30日程度になるのに1年半かかり、その後1年は鍼灸を行いながらタイミングを取っていただいていました。
合計して鍼灸の治療期間は実に2年半で、不妊歴も13年となりましたが、自然妊娠されました(紹介状を渡して、某大学病院不妊治療専門外来で検査期間中のことでした)

この方については、実はオチがあって、検査期間中には当然ルーチンで行う子宮卵管造影も行い、実に妊娠した前の周期では子宮卵管造影を行っていました。結果は良好で問題はなかったとのことですが、結局は鍼灸が効いて(周期も正常になっていたわけですから)妊孕力(にんようりょく)が高まっていたところに、子宮卵管造影によって卵管の通りが良くなった結果ではないかと推測します。

ART(高度先進生殖医療)よりも鍼灸が効果がある、などと私は思ってもいませんが、基礎体温表を読みながら鍼灸を行うと、ほとんどの方が遅かれ早かれ(基礎体温表のグラフ像などが)改善していくことがほとんどです。

その後自然にタイミングを取っていただき、それでも妊娠されない場合は、やはり専門医の先生にお任せするしかないと考えます。
鍼灸で妊孕力を高める体づくりは出来ますが、魔法ではありませんから、絶対的な不妊にはやはりARTは必要なのです。

授かること、について(3)

去る8月9日(日・はりきゅうの日)には、郡山市民文化センターにて無事鍼灸師会の60周年記念講演会が開催されました。

会場が狭く窮屈になるほど聴講者のかたが来られまして、とても嬉しく思いました。

http://fukushima.harikyu.or.jp/blog/archives/24.html

↑こちらに講演会の模様を書きましたので、ぜひご覧ください。


毎日毎日、子を望まれる方に接し、時間があれば様々な書物を漁っていると、ふと思うときがあります。

まだ子宝に恵まれないというのは、不妊ではなく未妊と言うべきではないか、と思うのです。
手術や高度な西洋医学的治療が本当に必要なのは、実際にはもっともっと少なくて、ハリや灸治療も必要なくて・・・妊娠できることとは特別なことではないと感じるときがあります。

日が昇るとともに起き、日が沈むとともに眠る。
その季節に採れる旬のものを食べ、
ねたみ、恨み、嘘をいわず、心に憂いを溜めない、

こんな生活を送れれば、不妊はなくなると思うのです。

現在は10組に1組以上の不妊カップルがあると言われていますが、良くも悪くも人間の進化の一つの現象だと思っています。