No.141の記事

今日も授業日

木曜の今日も、午後からは某専門学校鍼灸科で臨床実習の授業を行ってきた。

先週は『下肢痛を伴わない腰痛』だったが、今日は『上肢痛を伴わない肩こり』について、普段自分が行っている診察法と治療法を話してきた。

腰痛についても、『下肢痛を伴わない・・・』というのも片手落ちだと思うが、授業の単位が決められている以上それに即して行わなければならない。

通常、単なる腰痛と、たとえば座骨神経痛や脊柱管狭窄症などはセットにしてたっぷり時間をとらねば学生に教えることは難しいと思う。
単なる肩こりについても、実は頸椎の異常や胸郭出口症候群などの整形外科的疾患の一症状で起こる場合が珍しくない。
また腰痛や肩こりといった『ありふれた症状』のなかに、見過ごしはいけない重大な疾患が隠れている場合がある。

前回の腰痛の授業の時は、

・単なる腰痛でも必ず腹診をせよ、外科手術の跡があったら『ガンの手術』であったと疑え。5年生存率は統計で使うための単位であって、『5年経てば逃げ切れた』訳ではない。10年経っても再発するガンはあるし、そもそもガンになりやすい体質はあるものだ。1度罹患した患者は、もう一度ガンになることはよくあることだ。

・一番楽な姿勢でいれば痛まないのが鍼灸の効果のある腰痛である。自発痛があれば内科的な疾患(胃潰瘍など、予後良好な疾患であっても)を、また夜間に目が覚めるような、そしてだんだんと憎悪する痛みがあれば、それは鍼灸など悠長に行うべきではなく、一刻も早く医療機関での精査をすすめるべきである。

そんなことを話した。


今日の授業の題目の『肩こり』では、

・自発痛や夜間痛を訴える場合は、内科的疾患によるものや場合によってはガンなどを疑うべし。

・高齢者などでは、首の回旋などの運動によって引き起こされる『めまい』や『ふらつき』などを伴う肩こりもある。こういった症状を持つ患者は、多くは椎骨動脈や総頸動脈の血流に異常がある場合が考えられ、体動により一過性脳虚血が起きているおそれがある。だんだんと脳梗塞などの重大な疾患に結びつくことも多いので、注意が必要である。

そんなことを話してきた。



患者さんとの出会いは、いつしか別れへとつながる。

健康になって鍼灸院を訪れなくなるのであれば、それは大変喜ばしい物だが、もしかしたら効果のない自分の技術に愛想を尽かしてほかの治療院や治療法を選んで離れていったのかもしれない。

しかしもっとも避けなければいけないことは、隠れた重大な疾患を見過ごし、鍼灸以外の有効な治療を受けられるタイミングを奪ってしまい、患者を死に至らしめてしまうことだ。

こんな偉そうなことを言っている自分も、隠された重大な疾患を見過ごしてしまったことがあった。
このことは『こういうこともあるので、よく勉強してほしい』と来週の授業で取り上げようと思う。

ふとした縁で患者さんと『先生』という関係になるが、鍼灸は胎児の時から生命の幕を閉じるまで効果のある医療だと思っている。

ぜひ出会った患者さんとは、末永くおつきあいさせていただきたいと思う。